【2021年2月定例会】 サプライチェーン特集

2021年2月20日(土)14:00~17:00にAIビジネス研究会1月定例会を開催しました。

今回はサプライチェーン特集です。

コロナ禍において、注文していた製品の納期が遅れたり、部品が手に入らず生産出来なくなったりするなどの話を聞くことがあります。これらはサプライチェーンの構造が大きく影響しており、AI等を活用した新しいサプライチェーンソリューションによる解決の可能性をご講演頂きました。

講演1)AI搭載マーケティングインテリジェンスツールによるサプライチェーンの見える化

宮原会員より、AIを搭載したマーケティングインテリジェンスツールであるpanjivaをご紹介いただきました。

皆さんは、企業間の取引が公開されていることをご存じでしょうか?

企業間の海外取引(輸出・輸入のinvoice)を公開することになっている国は19か国あり、その中には米国、中国、インドのメジャーな国も含まれます。残念ながら日本は対象ではありませんが、公開している国との取引については公開されています。国よって公開範囲は異なりますが、取引先との数量や価格まで公開している国もあります。

一つ一つの取引(invoice)単体では利用価値はありませんが、これらが組み合わさるとサプライチェーンが見えてきます。講演の中でもpanjivaのデモをして頂き、米国の有名企業の輸入情報からどの程度の利益を得ているかが分かるだけでなく、下請けの取引先どのようなネットワークを構築しているか、逆に、販売網側もどのような販売先があるか、可視化される事例をご紹介いただきました。

実際、あるプラント用機械設備は中国で組み合わせて製作され、日本に輸入されていますが、その金属部分はインドで製作され、演算装置部分は東南アジアの国で製作されているので、中国・インド・東南アジアのロックダウンの影響を受け、納期が延長されたそうです。

Panjivaのようなツールがあれば、ロックダウンの影響がどの程度の納期遅延となるか想定することが出来るようになりますし、いざとなれば、競合のサプライチェーンを真似することも出来ることが分かりました。

本講演を通して、サプライチェーンももうすでに情報戦となっている気がしました。AIを活用して整理された情報を取得して、すばやく戦略を構築する、これが理想ですがなかなか難しいですね。

講演2)飲料会社のAI最新事例と今後の展望

津田会員より、飲料業界の食品表示上の課題のほか、画像解析技術がより身近になっている事例をご講演頂きました。

食品業界では年間約1000件のリコール(回収)事例が発生しているようです。このようなリコールの背景には、食品表示法が関係しています。食品表示法では、消費者が食品を安全に摂取でき、かつ、健康の保持・増進に繋がるように定められており、表示ラベルや原材料一覧、成分表示において誤解を与えないように、詳細に規定されています。

全ての原材料の生産地を記載する必要はありませんが、トレーサビリティをきちんと把握しておかないと、原材料表示等で記載の誤りが発生してしまい、それがリコールに繋がることもあるそうです。

このような背景から、飲食業界において画像解析を用いた検品・検査が活用されるようになっており、津田会員から、具体的な検品事例とご自身が実際試した画像解析ツールをご紹介いただきました。

ご紹介いただいたのは、ノーコードのニューラルネットワークの無料ツールで、津田会員がトライしたのは、車の車種判定です。3種類のスポーツカーを区別するために100枚の写真を与えて学習してモデルを作成後、10枚のスポーツカーの写真を判定したところ、6枚で正解したとのこと。チューニングはインターネット上の動画を参考に1週間ほど悩んだそうですが、100枚程度でここまでの精度が出るのは本人も驚きだったそうで、ノーコードである点もディープラーニングが身近になってきた気がします。

講演3)キナクシス・ジャパン 山川 敦士様 サプライチェーンマネジメントの基本と最新動向、課題を解決した事例について

日本企業はガートナーの評価でもサプライチェーンが弱いようで(Gartner 2020 Supply Chain Top 25 and Mastersなどを参考)、実際、自然災害のたびに課題となってきましたが、コロナ禍において再度注目されているようです。BCPにおいて素早くサプライチェーンを再構築する必要がありますが、なかなか難しい話です。

その様な場面で活用されているサービスの一つとして、キナクシス社のRapidResponseをご紹介頂きました。需要予測から在庫・生産・調達に関する意思決定をサポートするサービスで、実際に米国にてハリケーン予報が出た際に、ある企業がルイジアナ州の工場の機能をオハイオ州に移転する際に本サービスの演算により、サプライチェーンの再構築案を出すことが出来たそうです。

山川氏からは、今後の展望として、需要予測は各ベンダーにて普及してきており、中小企業も含めて取り組んでいくだろう。その中で、サプライチェーンに関するデータはブロックチェーンを活用して企業間で共有され、在庫管理等の精度はアップするだろう。との展望をお話し頂きました。

文責:野網会員