2026年1月17日(土)、AIビジネス研究会の1月定例会が開催されました。 今回のテーマは「未来の働き方特集4:人的資本分野」。従業員が持つ知識やスキルといった「無形資産」を、AIが普及する時代においてどのように扱い、経営に活かしていくべきか、3名の会員による講演とワークショップを通じて深掘りしました。
講演1)ITソリューション業界の人材課題と展望
講師:平瀬 武司 (AIビジネス研究会会員)
最初の登壇者である平瀬会員からは、現場のSE視点による「ITソリューション業界の人材課題と展望」についてお話しいただきました。
- 業界の構造的課題
日本のIT業界は、多重下請け構造やレガシーシステム(稼働20年以上の老朽化したシステム)の維持管理コスト増大といった課題を抱えています。 - AIによる開発スタイルの激変
従来のウォーターフォール型開発に対し、AIを活用した開発では要件定義からプロンプトを通じてAIが実行計画や製造を行うため、工期やコストが半分以下に圧縮される可能性が示されました。 - 求められる人材像
単なる作業者(コーダー)は淘汰され、全体を指揮する「AIオーケストレーター(AIの指揮者)」や、ビジネスの本質的な課題を定義する「問いを立てる力」を持つ人材が生き残ると強調されました。

講演2)「開示は進んだ。でも中身は?」から考える人的資本経営
講師:藤田 遥一 (AIビジネス研究会会員)
続いて、化学品専門商社で経営企画・IRに携わる藤田会員より、「人的資本経営の実践と開示」についての講演が行われました。
- 人的資本経営の本質
人材を「コスト(管理対象)」ではなく、その価値が伸び縮みする「資本(投資対象)」と捉え、中長期的な企業価値向上を目指す考え方です。 - 開示と中身の乖離
上場企業を中心に「統合報告書」などでの情報開示が進んでいますが、経営戦略と人材戦略が連動していない、あるいは形式的な開示に留まっているケースも少なくありません。 - HRテクノロジーの活用
タレントマネジメントシステム(カオナビ等)の導入事例を通じ、「ツールを入れること」が目的ではなく、「人的資本経営を機能させるための設計と運用」こそが重要であると説かれました。

講演3)AI・DX等の普及に伴う人材需給の変化について
講師:中井 一 (AIビジネス研究会会員)
最後は、現在大学院で経済学を研究されている中井会員より、マクロな視点から「AIによる労働市場の変化」について解説いただきました。
- 労働市場の両極化
AI・DXの進展により、特に事務職や販売職などの中スキル層で余剰が生じる一方、専門技術職では不足が続く「労働市場の両極化」が予測されています。 - 低スキル層の底上げ
興味深い研究結果として、生成AIは高スキル者よりも、経験の浅いジュニアレベルや低スキル者の生産性を大きく向上(底上げ)させる補完技術として機能している点が紹介されました - 創造的破壊
翻訳業など、すでにAIによる代替が進んでいる業界では、単価下落やスキルの二極化が顕著になっています。中井会員は、この「創造的破壊」が進む中で個人がいかにサバイブしていくかを今後も研究していくとしています。

ワークショップ1)人的課題はAIで解決できるか
講演の後は、3つのグループに分かれて「AI導入は人材をどう変えるのか」「企業はどう手を打つべきか」というクエスチョンについて議論を行い、以下のような意見が出ました。
- 個人スキルへの影響
AIを使いこなすスキルが必須となる一方で、顧客の本質的なニーズを読み取る力など、AIで代替困難な「リアルな価値」の重要性が増す。 - 組織・プロセスへの影響
AIによって補助的業務がなくなることで、組織はスリム化され、専門職を外部から調達する流れが加速する可能性が高い。 - 企業の打ち手
業務の暗黙知を形式知化し、AIが活用しやすい環境を整えること、またAIリテラシーのボトムアップに向けた実践型研修の必要性が高まる。
まとめ
今回の定例会では、IT現場のミクロな視点から、企業の経営戦略・情報開示、そして経済全体のマクロな視点まで、「AI×人的資本」というテーマを多角的に捉えることができました。 「AIに使われる側」ではなく「AIを使い倒す側」への進化が、これからの診断士やビジネスパーソンにとっての唯一の解であることを再認識する機会となりました。
文責:松浦会員、高田会員

