もしAIに手足が生えたら働き方はどう変わるのか――。そんな突拍子もない問いかけから、2025年9月20日の定例会はスタートしました。テーマは「未来の働き方」。今回は“ロボット対決”と“アンケートを使わないマーケティングリサーチ“という、一見すると突飛だけれど本質を突いた議論が展開されました。
セッション1)ロボット対決:台車走行か二足歩行か?
当研究会の伊藤昌隆氏が「ロボット対決:台車走行ロボ vs. 二足歩行ロボ」と題し、AIロボットの活用可能性について述べました。参加者は、この二種類のロボットが未来の働き方をどう変えるのか、活発な議論を交わしました。
台車走行ロボットと二足歩行ロボットの特徴
台車走行ロボットは、工場などで見られる自走式のロボットで、製品の製造工程を自動化します。安定した走行が可能で、作業の省人化と効率向上に大きく貢献します。
一方、二足歩行ロボットは、その名の通り二本の足で歩行するように設計されています。台車走行ロボットが苦手とする階段や狭い通路など、より複雑な環境での活動を目的に研究・開発が進められています。
参加者は動画資料を視聴後、二つのロボットチームに分かれて議論しました。図1に示すように、一方は、ゴロゴロと安定して走る台車走行ロボチーム。もう一方は、人間のように二足で歩くロボットチーム。どちらが未来の働き方を大きく変えるのか?

- 台車走行ロボチームの検討結果:
図2に示すように,製造業界における人手不足や高齢化、3K職場の敬遠、熟練技能の属人化といった課題を洗い出しました。そのうえで「危険作業をロボが担えば安全性が上がり、データ化で技能が伝承される。結果として若者が参入しやすい業界になる」と未来を描きました。地味だけれど堅実なシナリオです。 - 二足歩行ロボチームの検討結果:
図3に示すように,介護業界における人手不足や離職率、入浴や排泄補助の負担といった課題に挑みました。「二足ロボが身体介助を担い、さらに会話や見守りで心理的ケアを補うことで、介護者も要介護者も笑顔になれる」との提案です。
それぞれの強みを活かしたガチの戦いでした。「ありがとう」と言われるのは二足歩行ロボかもしれませんがまだ実用化には課題があります。現時点の実用性で勝るのは台車ロボかも知れませんね。


セッション2)アンケートではなく、行動と脳波を測る?
当研究会の佐々木節氏より、「市場調査サンプルパネル事業の新たな可能性」 が示されました。同氏の勤務する市場調査会社は、「生活者と企業の想いをつなぎ、笑顔と感動を創造する」という理念のもと、日本最大規模の消費者パネルを保有し、インターネット調査を通じて業界をリードしてきました。同社は昨年、直接販売を試みましたが、厳しい競争環境の中で断念しました。
そこで強みを再確認し、世界最大のマーケティングリサーチ団体ESOMARのメンバーとして、世界最先端の手法をいち早く導入できる優位性を活かす方針転換を勝手に検討。その新戦略の中核は、従来のアンケート調査を超える革新的サービスです。すなわち、(1)脳波データと(2)消費者行動データの次世代データを武器に、「アンケートでは見えない人の本音」を捉える挑戦が始まりました。図4に示すように,参加者は、脳波データと行動データの二つのチームに分かれて議論しました。

- 行動データチームの検討結果
図5に示すように,行動データチームは、小売サービス業向けに「購買データに日常行動を組み合わせれば、なぜその商品に行き着いたのかがわかる」と提案しました。アンケートでは得られない、生活シーンから生まれるインサイトを抽出できるというのです。 - 脳波データチームの検討結果
さらに驚きを呼んだのが脳波データチーム。図6に示すように,不動産デベロッパーを想定し、「バーチャル内覧中に脳波や心拍数を測れば、どの空間でときめき、どこでストレスを感じたかが科学的にわかる」とのアイデアが飛び出しました。マンションが“脳波で売れる”時代が来るかもしれない、という発想には参加者らに笑いと驚きが入り混じりました。


今回のワークショップを総括すると、「AIは道具ではなく共創のパートナー!」今回の定例会で共有されたのは、AIは人間を置き換える存在ではなく、“課題を一緒に解くパートナー”であるという認識です。
- 土木では「ロボットが危険を引き受けるから、若者が戻ってくる」
- 介護では「負担を軽くするから、介護する人もされる人も報われる」
- 小売サービス業では「行動を重ねるから、本音が見える」
- 不動産業では「脳波を測るから、ときめきが企画につながる」
どのチームも、AIが人間の弱みを補い、新しい価値をつくり出す未来を描いてくれました。
まとめ)
未来の働き方は“選ぶ物語”。技術が未来を決めるのではなく、AIが見せる可能性の中から、私たち人間がどんな物語を選び、どう活かすか。それこそが未来の働き方を形づくる鍵です。今回の定例会は、台車ロボと二足ロボ、行動データと脳波データというユニークな切り口を通じて、AIがいかに人と共創できるかを体感する機会となりました。次は、AIが“同僚”や“上司”になる未来を語るのかもしれません。

文責:佐々木会員、伊藤会員


