【2025年11月定例会】ロボットの社会実装はどこまで進んでいるか?

ロボットの導入による業務の効率化は大事ですが、もっと大事なことは「効率化によって空いた時間で、人間が何を行うか」にあるのではないでしょうか?

2025年11月15日に開催されたAIビジネス研究会定例会では、外部専門家によるロボット技術の社会実装に関する講演、研究会メンバーによるデジタルツインに関する知見の共有、日本のAI戦略に関する報告、および中小企業のDX/AI計画策定ワークショップが実施されました。

講演1)ロボットの社会実装最前線

講師:特定非営利活動法人ロボットビジネス支援機構 プロジェクトプロモーションオフィサー 村上 出様

本講演では、特定非営利活動法人ロボットビジネス支援機構の村上 出様より、深刻化する人手不足への対策としてロボット活用の現状と展望が語られました。村上様はまず、「省人化(頭数を減らす)」と「省力化(作業負荷を減らす)」を明確に区別することの重要性を説きました。ロボットはあくまで作業負荷を減らすためのツールであり、その導入目的は自動化そのものではなく、人とロボットの適切な分業による生産性の向上にあると強調されました。

1)具体的な導入戦略

中小企業においては、完全自動化を目指す大企業とは異なり、人と共存して作業できる「協働ロボット」の導入が推奨されています。導入にあたっては、経済産業省のプロセス標準「RIPS」を参考にしつつ、特に上流工程での「仕様定義(やりたいことの明確化)」を徹底することが不可欠です。また、ロボットを単体で導入するのではなく、ITシステムと連携させて投資対効果を可視化することが成功の決め手であると指摘されました。

2)事例紹介

製造や物流現場での溶接・ピッキング作業への導入により、身体的負担の軽減に加え、1.6倍から2.4倍といった大幅な生産性向上が実現したケース。サービス業である調剤薬局の事例では、薬剤のピッキングや分包をロボット化することで、薬剤師が従来の「対物業務」から患者への説明やケアといった「対人業務」へシフトし、本来の役割に注力できるようになった業務変革のケース等を紹介。

さらに質疑応答の中では、ロボットのティーチング(教示)や建設機械の遠隔制御といった分野において、IT系の専門学生やゲーマーが高い適性を示していることに触れられ、彼らが新たな即戦力として活躍する可能性についても示唆されました。

講演2)デジタルツインのニーズと課題

講師:加藤 英晴氏 (AIビジネス研究会 会員)

本講演では、企業内診断士でありデータセンター事業戦略に携わる加藤英晴氏より、デジタルツインの基礎概念から中小企業における現実的な活用アプローチまでが解説されました。

1)デジタルツインの定義

現実のモノや環境をデジタル上に再現し、リアルタイムで「見える化」「試せる化(シミュレーション)」「最適化」を行う技術であること。IoTや3D CADと混同されがちですが、現実世界からのデータ収集だけでなく、仮想空間での解析を経て、現実世界へ制御や最適化のフィードバックを行う「双方向性」を持つ点が大きな特徴であることを説明。

2)導入の現状

シーメンス(製造業)やバーチャルシンガポール(都市計画)、鹿島建設(建設業)など、大企業や国家レベルでの先行事例が紹介され、生産性向上やリスク低減といったニーズに応えていることが示されました。

一方で、普及に向けた課題として、データ形式の統一やリアルタイム処理といった技術的な側面に加え、高額な初期投資・運用コスト、専門知識を持つ人材の不足などが挙げられ、これらが中小企業にとって導入の障壁となっています。

こうした課題に対し、中小企業への導入ヒントとしては、全ての機能を網羅するのではなく、まずは「見える化(レベル1〜2)」から始めるスモールスタートが推奨されています。具体的なツールとして、安価なシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」、プログラミング知識が少なくても扱える「Node-RED」、無料で利用可能なゲームエンジン「Unreal Engine」の組み合わせなどが実践されています。

事例では、静岡県IoT推進ラボの取り組みとして、これらのツールを活用し、金属加工業の設備稼働状況や作業員の安全管理を低コストで可視化したケースを紹介されました。

質疑応答では、講師の本業であるデータセンター事業における活用可能性にも触れられ、AIサーバーの発熱対策としての冷却シミュレーションや、機器配置の最適化においてデジタルツインが重要な解決策になり得るとの展望が語られました。

講演3)動き出した日本のAI戦略

講師:佐々木 太郎氏(AIビジネス研究会 会員)

AIは経済社会の発展の基盤技術であり、その研究開発と活用を促進するため、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」が2025年9月1日に施行されたことが報告されました。イノベーション促進とリスク対応を両立させて、最もAIを開発・活用しやすい国となるような法制度です。

このAI法に基づき、施策を計画的に推進するため、内閣に人工知能戦略本部が設置されました。戦略本部は、内閣総理大臣を本部長とし、人工知能基本計画の策定および実施を推進します。学識経験を有する委員からなる専門調査会と関係府省が連携するための推進会議も設けられており、すでに会議も開催されています。経産省の取組として中小企業におけるAI導入促進の円滑化も予定されています。AI活用支援に取り組む準備を進めることが、研究会メンバーに提案されました。

ワークショップ)中小企業の課題解決DX/AI計画

定例会の後半では、架空の老舗食品メーカー「株式会社ハマフーズ」(従業員35名)を事例に、事業継続のためのDX/AIを含む3カ年の中期計画を策定するワークショップが実施されました。

ハマフーズの経営課題 ハマフーズが抱える課題は以下の3点に集約されました。

  1. 技術継承の危機: 70歳のベテラン職人Aさん一人が、焼売の餡の練り工程という「手作りの味」の要を担っており、2年後の引退表明により事業継続が困難な状況にある。
  2. 生産性の限界と機会損失: 受注殺到にもかかわらず、生産能力が不足しており、また設備の老朽化による「チョコ停」(細かなライン停止)が生産効率を下げている。
  3. 品質管理とトレーサビリティ: HACCP準拠の厳格な衛生管理やトレーサビリティ、および賞味期限印字ミスや包装フィルムのズレといった目視チェックによるヒューマンエラーのリスクを抱えている。

3チームに分かれて白熱した議論の結果、各チームがDX/AI計画(3カ年ロードマップ)を提案しました。各チームとも、Aさんの熟練技能を継承し、生産性を高めるためのDX/AI計画の立案となっています。

チームDX/AI戦略の要点ロードマップ(要約)
1技能継承(マニュアル化)と協働ロボット導入による生産性改善。1年目:診断士への相談、Aさんの技能解析/マニュアル化、補助金応募。 2年目:補助金獲得、協働ロボット導入、品質管理/トレーサビリティ問題解決。 3年目:生産性改善、売上増加。
2熟練技術の形式知化(数値化/画像化)とデジタルツイン活用による品質管理。1年目:マニュアル化(人と機械の分業)、カメラ・センサー設置によるデータ収集。 2年目:言語化・画像化による技術伝承、ロボット導入。 3年目ロボット・センサーによる品質管理(味をデジタルツインで表現)
3餡練り工程の調理ロボットへの切り替えとQCの自動化。1年目:Aさんの餡練り工程を調理ロボットへ切り替えるためのSIer選定、データ取得、ロボット開発。 2年目:ロボットのブラッシュアップ(Aさんの離職に間に合わせる)。 3年目:運用面の改善。

特に、Aさんの職人技(餡を練る工程)を継承するために、センサーでデータや動画を取得してデータ化し、職人と同じ練り方で調理するロボットを導入する、あるいは「味をデジタルツインで表現」する といった、技術継承と自動化を組み合わせた具体的な提案がなされました。

4)まとめ

11月定例会は、ロボットによる省人化・省力化の具体的な手法、デジタルツインを低コストで導入するアプローチ、そして日本のAI戦略の最新動向 を学ぶ場となりました。特にワークショップを通じて、技術の進歩(ロボット、AI)は、伝統的な中小企業が抱える「技術継承」や「人手不足」といった喫緊の課題に対し、具体的な解決策を提供しうることを体感することができました。

今後は、ロボット導入におけるIT連携や上流工程の設計支援、および中小企業が活用しやすいデジタルツインプラットフォームの動向に注視していくことが、支援者として求められるでしょう。

文責:佐々木会員、松浦会員