2026年2月21日、神奈川県中小企業診断協会 AIビジネス研究会の定例会が開催されました。「生成AI時代の専門家の役割を再定義する」をテーマとして行われた定例会の模様をレポートします。
【講演1】診断士事務所の課題と展望 ~実務支援からローカルAI構築まで~
講師:水本繁会員
水本会員は、製造業の情報システム部門で長年培ったIT知見を武器に、2024年に独立開業しました。講演の前半では、自身の診断士活動における5つの実務支援策(人材育成、価格転嫁、事業承継、省エネ、BCP)を紹介しました。ITやエビデンスを駆使して、採用難への組織対応や戦略的な価格交渉、供給網維持のためのBCP策定など、中小企業の喫緊の課題に伴走する実践的なアプローチが共有されました。
後半では、機密情報を外部クラウドに送信せずに生成AIを活用できるローカルAIの構築手法が解説されました。ローカルAIは、私たちが普段利用しているクラウド型の生成AIサービスと異なり、社内環境でAIを動作させることで情報の秘匿性を確保できる点が特徴です。ゲーミングPC上に大規模言語モデルを構築し、外部知識を参照するRAG(Retrieval-Augmented Generation)やモデルの振る舞いを調整するファインチューニングなどの手法を実装することで、アンケート分析やSNS投稿文による検証の結果、クラウド型の生成AIに匹敵する結果が得られることが報告されました。さらに、複数のAIエージェントが役割分担して連携するAgent-to-Agent(マルチエージェント)構成を導入することで、AIは単なる推論ツールから、業務を自律的に実行する基盤へと発展していく可能性が示されました。

【講演2】スタートアップ×コンサルの実践から学ぶAI活用の展望
講師:株式会社Franca AI CEO 井上舜平様
生成AIを活用した業務効率化やデータ活用の分野で事業を展開する株式会社Franca AI CEO 井上舜平様より、専門家が直面するAI時代のパラダイムシフトについて講演いただきました。
まず、AIは膨大な情報処理や資料作成など多くのタスクを代替できる一方で、人間の「理解」や最終判断そのものをAIに委ねることはできないと指摘しました。今後は、AIが担う下調べやドラフト作成などの高度な情報処理と、人間が担う例外的なケースへの対応や状況判断を組み合わせる「AIとの協働」が、専門家の新たな価値になるとの考えが示されました。
また、今後重要となるスキルとして「コンテクストエンジニアリング」が紹介されました。これは、AIが適切に判断できるよう、必要な情報を適切なタイミングで与え、業務の文脈(コンテクスト)を設計する技術や思考法を指します。業務プロセスをAIが理解できる形に再構築することが、AI活用の鍵になると説明されました。
さらに、AIによってソフトウェア開発のスピードが大きく向上する「バイブコーディング」の広がりにより、組織の在り方も変化すると述べられました。従来のトップダウン型の組織だけでなく、現場に権限を委譲し、小さな改善を高速に回していくボトムアップ型の組織運営が重要になるとの知見が共有されました。
本講演を通じて、AIを単なるツールとして利用するだけでなく、業務や事業の理解とAI技術の双方を踏まえて活用できる人材の重要性が改めて示されました。事業の本質を理解しながらAIを活用できる「ハイブリッド人材」が、今後の企業活動や専門家の価値を高める鍵になることを強く感じる内容となりました。

【ワークショップ】AI時代の専門家の役割を再定義する
講演後に、参加者が主体となるワークショップが行われました。小売、製造、サービスなど業界ごとのグループに分かれ、「今後の専門家の役割」について議論しました。小売業では五感を活かしたトレンド先取り、製造業ではチームの結束力向上、サービス業ではコーチングを通じたモチベーション維持など、活発な意見が交わされました。AIには代替できない「人間力」に基づく新たな役割が業界によって異なることが発見となり、有意義な議論となりました。
まとめ:
今回の定例会では、AI技術への理解を実践的に深めながら、同時に人間にしかできない「問いを立て、行動を促す力」を磨くことの重要性が示されました。AIビジネス研究会では、今後も最新技術を中小企業の支援に繋げる活動を続けてまいります。


