【2025年3月定例会】ビジネスモデル変革特集

2025年3月15日、Zoomにて「ビジネスモデル変革特集」をテーマに定例会を開催しました。本会では、システム構築の最新手法をはじめ、生命保険業界における革新事例、さらには生成AIの発展を支える大規模言語モデルの役割について、多角的な視点で議論を深めました。

講演1)システム構築事例から学ぶこと~変わっていい事とだめな事

IT企業勤務の浅岡会員によりシステム開発の手法と実際の現場経験について分かりやすく説明して頂きました。システム導入によって業務効率が向上し、ミスの削減やコスト削減が期待できる一方で、初期費用や,導入や運用に時間がかかるシステム障害リスクなどのデメリットも存在することなどの説明がありました。

開発手法については、段階的に進める「ウォーターフォール型」と短期間の開発サイクルを繰り返す「アジャイル型」の違いが説明されました。ウォーターフォール型は計画的な開発が可能ですが、初期の誤りが後々大きな手戻りを招くリスクがあります。一方、アジャイル型は早期に価値を提供できますが、全体のスケジュール管理が難しいという特徴があります。

システム導入形態としては、一からプログラミングする「スクラッチ開発」、既製品を導入する「ERPパッケージ」、従来のプログラミングをほとんど使わない「ノーコード・ローコード」の3つが紹介され、最近では「ノーコード・ローコード」が注目を集めているとのことです。

講演の中心となったのは、とある業界でのシステム統合プロジェクトの実例でした。このプロジェクトでは、要件定義の大幅な遅れに始まり、スケジュールを取り戻そうと設計・テスト工程を省略したことで、多くの不具合が発生し、最終的には業務ユーザーから強い不満が噴出する結果となりました。

この失敗事例から導き出された教訓は「ブランコの比喩」で表現されました。顧客が本当に望んでいるものと開発側が理解したもの、そして実際に作られたものの間にはしばしば大きなギャップが生じるという古典的な問題です。顧客の言語化されていない暗黙知や本当のニーズを正確に把握することがプロジェクト成功の鍵だと強調されました。

浅岡会員の結論として、日々進化しているAIを活用して仕事を効率的に行うのは当然ですが、「顧客の本当のニーズを聞き出し、共通認識を作る」というコミュニケーションの本質は変わらないという重要なメッセージが伝えられました。

講演2)生命保険業のビジネスモデル変革とAI

生命保険会社勤務の仲野会員による、生命保険市場の動向とビジネスモデル変革におけるAI活用についての講演が行われました。世界の保険市場では、アメリカが首位、日本は第4位ですが、中国やインドなど人口の多い国々ではまだ保険浸透率が低く、日本の保険会社が海外展開を進める理由となっています。

日本国内では人口減少が進行する中、加入率は世帯ベースで約9割と高水準に達しており、新規市場として若年層(29歳以下)の開拓が重要視されています。また、契約内容の傾向として、死亡保険から医療・がん保険へとシフトしていることが示されました。これは日本の平均寿命延伸に伴い、「死亡リスク」より「長生きによる病気リスク」への備えが重視されるようになった結果です。

加入チャネルについては、従来の営業職員経由が9割を占めていた状況から、現在は約5割まで減少し、代理店や銀行窓販の比率が高まっています。インターネット経由の加入は実績では4%に留まるものの、今後ネット経由の加入を希望するお客様が34%に達しており、オンライン志向の高まりが見られます。

ビジネスモデルの観点からは、保険募集・引受査定・契約管理・保険金支払いの各フェーズにおいて、AIがどのように活用されているかが具体例と共に紹介されました。

ニーズ喚起の段階では、LINE上のチャットサービスや健康リスク予測Webサービスにより、顧客の保険意識を高める取り組みが行われています。募集段階では、AIが顧客に最適な保険を推奨し、顧客と営業職員のマッチングを行うサービスが登場しています。さらに営業職員のトレーニングにもAIが活用され、表情やトークスキルの評価・改善が図られています。

特に注目されるのは、日本生命の「訪問準備システム」で、1000万人分の顧客情報をAIで分析し、営業職員に最適な提案内容を示唆するものです。最新の取り組みとしては「デジタルバディ」と呼ばれる仮想チームメイトが登場し、営業職員と共に顧客対応を行う「ハイブリッド型営業」へと進化しています。

手続き・照会の領域では、AI音声応答サービスやデジタルヒューマンによる24時間対応、コールセンターでのAIアシスタントが導入されています。保険金支払いの段階では、AIOCR技術により医師の手書き診断書を解読し、不正請求を検知する仕組みが構築されています。

仲野会員は、今後の展望として、商品開発においては遺伝子検査などの先端技術を活用したリスク細分化が進み、より個別化された保険設計が可能になると指摘しました。一方で、AI技術がさらに発展しても、保険募集においては「営業職員とAIのハイブリッド」という形が主流となり、対面チャネルの重要性は失われないだろうと予測しています。

講演3)東京大学 松尾・岩澤研究室「大規模言語モデル2024」講座の受講報告

佐々木会員が、日本のAI研究の第一人者である東京大学・松尾豊教授(日本ディープラーニング協会理事長、内閣府AI戦略会議座長)の松尾・岩澤研究室が主催する「大規模言語モデル応用講座2024」への参加体験を共有して頂きました。松尾研究室は「知能の謎を解き明かし、シリコンバレーに並ぶエコシステムを作る」という理念のもと、最先端AI研究を進めています。

この講座は2023年9月から11月まで全12回にわたり、オンラインで開催され、約4,000名が参加する人気講座でした。講義内容は大規模言語モデル(LLM)の基礎から実践までを網羅し、1回あたり100ページ以上にもおよぶ充実した資料が提供されたとのことです。

カリキュラムは、LLMの概要、プロンプトエンジニアリング、事前学習の仕組み、スケーリング則、ファインチューニング、半導体エコシステム、教師あり学習、安全性対策、モデル分析と理論、ドメイン特化型LLM、応用事例など、体系的な構成となっていました。特にAIの安全性や日本語モデルの開発、さらには松尾研究室が強みとするロボット工学との連携など、実用的なトピックに重点が置かれていました。

講座の最終課題では、学んだ知識を活かして実際にLLMをチューニングし、性能を競うコンペティションが実施されました。参加者はLLM-JP-3(130億パラメータ)やGemma-2(270億パラメータGoogle製)などのオープンモデルを用いて開発し、チューニング済みモデルをHugging Faceで公開するという実践的な経験を積むことができました。

佐々木会員は、「松尾研コミュニティ枠」として参加しましたが、他にも学生枠や企業スポンサー枠など様々な参加形態があり、参加者の60%が学生、40%が社会人という構成でした。

松尾研究室ではこの大規模言語モデル応用講座を2023年から毎年開催しており、2025年秋にも開催予定とのことです。佐々木会員は「松尾研LLMコミュニティ」への参加を通じて次回の講座参加機会を得られる可能性もあり、AI技術に関心のある方には参加を検討する価値があるとアドバイスしています。

演習3)LLMを活用したクリエイティブコーディング演習

佐々木会員による、「クリエイティブコーディング」として、プログラミングの知識がなくてもAIの力を借りて簡単にアート作品やゲームを作れるワークショップが行われました。松尾研コミュニティイベントBeginning LLMでも行われていた内容です。参加者は「P5.js」というツールとAIプロンプトを組み合わせ、万華鏡のようなパターン、マウスに反応するエフェクト、宇宙飛行士の回転、四季の風景表現、ドラクエ風バトルゲームなど、笑いも出るような多彩な作品を短時間で制作し、参加者一同楽しみました。

文責:笠置会員