2026年3月21日(土)、神奈川県中小企業診断協会 AIビジネス研究会の定例会が開催されました。パート2として,滋賀大学特任教授に就任した小泉会長による特別講演の模様をレポートします。
講演4)生成AIは意思決定をどう変えるのか?― 予測AIの時代から、因果で学習する組織へ ―
講師:AIビジネス研究会代表 小泉 昌紀

・問題意識
2026年3月に滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター 特任教授に就任した小泉会長はまず、自身の根本的な信念として「AIが進展し不確実性が高まる社会においては、データに基づく意思決定に加え、その背後にある因果関係(何が結果を生み出しているのか)を理解することが不可欠である」という問題意識を提示しました。その上で、今日のAI議論に欠けている視点として、「個人の生産性が上がったとして、それが果たして組織能力になっているのか」という論点を提示しました。生成AIは業務効率を大きく高める可能性がある一方で、導入の仕方によっては、業務の分断や判断の質の低下を招く可能性もあると指摘しました。本講演では、こうした背景のもと、「個人の効率化から組織的な意思決定能力への転換」という課題が主題として扱われました。
・AIの進化と「実験志向」
次に、AIの能力進化とそれに伴う意思決定の変化について説明がありました。AIの本質は「予測」であり、近年は計算資源の増大やアルゴリズムの進展により、その予測精度と利用可能性が大きく向上しています。これにより、従来コストが高かった意思決定の補助が、より広範に実行可能になっています。
一方で、「AIをどの業務にどのように適用すべきか」は依然として試行錯誤の段階にあります。このため多くの企業では、小規模な実証(PoC)を繰り返しながら活用可能性を探索するアプローチが採られています。実際、デジタル部門においては、試行回数そのものが評価指標の一つとして扱われるケースも見られます。
こうした状況について講演では、産業構造が直ちに崩壊するというよりも、試行錯誤を通じた再編や競争環境の変化が進行している段階にあると整理されました。
・組織変革と因果への着目
続いて、講演者自身の実務経験として、NECの組織変革における実践事例とそのプロセスが共有されました。
当時、エンゲージメントスコアが低迷していた組織に対し、「部下が裁量を持って働ける管理職の特徴は何か」を分析しました。その結果、部下のエンゲージメントに強く関連する要因として、「上司に対する信頼感や心理的安全性の知覚」が重要な説明変数として示されました。
これを踏まえ、管理職の行動(声がけや関わり方)を変える施策を実施したところ、エンゲージメントスコアは一定の改善が確認されました。また、同時期に企業業績や株価にも改善傾向が見られました。(これらの関係は複数要因の影響を受けるため、単純な因果関係として解釈することはできません)
この経験から、まず自社で実践して成果を出してから顧客に展開する「クライアントゼロ」の考え方が形成されたと説明されました。
・因果メカニズムの重要性と実践例
講演では、成果を生み出すためには「施策→知覚→行動変容→成果」という因果連鎖を丁寧に把握することが不可欠であり、複数の実証・事例が紹介されました。
- 従業員監視技術と動機づけ:
監視の目的を「評価の公正性確保」と説明することで、従業員の受け止め方が変化し、モチベーション向上が示唆された。 - 生成AI導入時のメッセージ:
「生産性向上」よりも「早く帰れる」といったワークライフバランスに基づく訴求の方が、従業員のモチベーションが高まる傾向が示唆された。 - フェアトレードコーヒー:
社会課題よりも生産者の仕事や品質に焦点を当てた訴求が、購買行動に影響を与える可能性が示唆された。 - ホテルの朝食改善:
受注生産的な発想を導入することで、廃棄削減と満足度向上を両立した。 - 子供の声への印象:
属性によって受け止め方が異なる可能性が示され、特に女性層で影響が大きいという傾向が示唆された。
・まとめ
本講演では、生成AIの普及に伴い、単なる効率化ではなく、意思決定の質そのものを高めるための「因果理解」と「実験的アプローチ」の重要性が強調されました。また、AIを活用して意思決定を支援される側から、意思決定を設計・検証できる側へと転換していくことが、今後の組織およびビジネスパーソンに求められる能力であると整理されました。
※パート1のレポートはこちら。

