2026年3月21日(土)、神奈川県中小企業診断協会 AIビジネス研究会の定例会が開催されました。パート1として,全日本AIハッカソン決勝戦の振り返りや、AIコミュニティCDLEの紹介、AIを活用したM&Aの推進の模様をレポートします。さらにはパート1として、滋賀大学特任教授に就任した小泉会長による講演をレポートします。

講演1)全日本AIハッカソン決勝戦の振り返りとデモ実演
講師:笠置 晶(AIビジネス研究会会員)

笠置会員は、AIにノリや雰囲気(バイブ)で指示を出して対話しながらアプリを制作する「バイブコーディング」を活用し、「全日本AIハッカソン2025」に参加した貴重な体験を共有しました。東日本大会の予選では、AIが答えのない問いを投げかけユーザーを評価する「一人禅問答」アプリを制作し、見事にビギナー部門で優勝して決勝進出を果たしました。
しかし、決勝戦までの8ヶ月間にはルールの変更やメンバーの辞退があり、本番では急造チーム「シンダナイズ(診断AI)」で臨むことになりました。一度も事前練習をしなかった結果、新しいAIツールへの挑戦が裏目に出てしまい、10チーム中で唯一アプリが完成しないという惨敗を喫したリアルな体験談が赤裸々に語られました。今年は、その悔しさと反省を活かしてご子息とのペアで再挑戦する予定であることが報告されました。
また、講演の後半では、決勝戦で実現できなかった「M&Aマッチングアプリ」の構想を約30分で制作し、その場でデモが披露されました。Antigravityの拡張機能経由でClaude Codeを使用し、1案件あたり約35〜60円という低コストかつ音声入力での実用的な「ビジネスバイブコーディング」のプロセスが示され、参加者の関心を大きく集めました。
講演2)AIコミュニティ「CDLE」の紹介と診断士業務への応用
講師:佐々木 弘(AIビジネス研究会会員)

佐々木会員からは、日本ディープラーニング協会(JDLA)が主催するAI関連検定(G検定・E資格)合格者からなる約9万人規模のコミュニティ「CDLE」についての解説が行われました。佐々木会員自身も、前職で3Dビジョンカメラとディープラーニングに出会ったことをきっかけに独学でAIの学習を開始し、CDLEに参加した経緯が語られました。
CDLEでは地域グループやテーマ別グループによる活発な活動が展開されています。地域グループ「シードル名古屋」では、GPTが画像やBGM、対戦処理などをすべて自動生成する体験型ゲーム「チャットモン」をイベントで出展しお昼休憩も取れないほど大盛況を収めている事例や、製造業向けに巡回活動を行っている事例が紹介されました。さらに「教育AIサミット」のような派生活動への参画も行われています。
そして、診断士業務との接点として、2025年12月に立ち上がった「CDLE中小企業診断士グループ」の意義が強調されました。技術的知見を持つCDLEメンバーと、経営課題に精通する中小企業診断士が連携することで、孤立しがちな中小企業のAI導入に対する実践的な「伴走型」支援が可能になるという力強いビジョンが共有されました。
講演3)AI×M&A
講師:笠置 晶(AIビジネス研究会会員)

本日2回目の登壇である笠置会員によるAI×M&Aの講演が行われました。本講演では、AIを活用してM&Aにおける各種デューデリジェンス(DD)やバリュエーション(企業価値評価)を実践する手法が解説されました。笠置会員によるAI×M&Aをテーマとしたセミナーは今回が3回目となりますが、第1回(城南支部 スモールM&A研究会)、第2回(城南支部 生成AI活用研究会)と別の中小企業診断士研究会での発表を経て、AIの劇的な進化に合わせて毎回内容がアップデートされています。過去のGeminiやClaudeの実践からさらに進化し、当研究会での発表となる今回は、次世代のAIツールである「Antigravity」や「Claude Code」を活用することで、全プロセスを一気通貫かつ3時間未満で完結させるという、飛躍的にレベルアップした話が披露されました。
ケーススタディでは、AIに対して「年収8千万円クラスのゴールドマン・サックスのアナリスト」としてのスキルや役割を与え、買い手と対象会社の与件文・財務3表・基本合意書(LOI)のたった3つの資料を読み込ませました。すると、こちらから細かく指示をしなくても、AIが自主的に「痒いところに手が届く」ほどの深い洞察を行い、市場TAM分析からQofE分析、さらにはバリュエーションのExcelモデル生成や法務面のRed Flag抽出に至るまで、合計約16万字に及ぶ膨大な3つのDD報告書と25枚の投資委員会資料を自動生成する様子が示されました。かつては何百万円・何ヶ月もかけていた専門的な成果物が、AIの力で1日で手に入る時代になったことが強調されました。
最後に、診断士とAIの掛け算がもたらす新しい価値について総括がありました。バリュエーションや財務モデリング、法務条項の設計といったファイナンス面・リーガル面の技術的ハードルはAIがすべて突破してくれます。一方で、中小企業経営者の気持ちを汲み取り、現場に寄り添いながらAIの出した「たたき台」の妥当性を検証し、交渉戦略を実行に移すのは人間の診断士にしかできない最大の付加価値です。AIを使いこなすことで、ファイナンスの専門家でなくとも診断士が強力な「M&Aアドバイザー」として活躍できるという力強いメッセージが共有され、参加者に大きな勇気を与えるセッションとなりました。
講演4)生成AIは意思決定をどう変えるのか?
講師:AIビジネス研究会代表 小泉 昌紀
※別レポートとしてアップしております。こちらをご覧ください。
まとめ)
今回の定例会では、ハッカソンを通じた最新のバイブコーディングの実践や、AIコミュニティ「CDLE」のネットワークを活用した診断士の伴走型支援、AIと診断士の専門性を掛け合わせたM&Aアドバイザリーの実践といった具体的なAI活用手法に加え、新たに特任教授に就任された小泉会長からのAI技術がもたらす意思決定や組織能力への影響というマクロな経営視点まで、非常に濃密で示唆に富む四つのトピックが順番に共有されました。「AIに使われる側」ではなく「AIを使い倒す側」への進化がますます求められる中、いかにそれらを実践し、組織や現場の課題解決に繋げていくべきか、これからの参加者やビジネスパーソンにとって新たなステップとなる貴重な時間となりました。

