2025年12月20日に開催されたAIビジネス研究会定例会では、AutoAIze株式会社 代表取締役松崎大河様をお迎えして、「人とAIが共創する社会」をテーマに、会員による講演と合わせて、ワークショップを実施しました。
講演1)従業員のキャリアを伸ばす生成AI最前線!
講師:倉地崇裕(AIビジネス研究会 会員)
本講演では、人材データを起点としたエンゲージメント向上の実践例として、まずNECにおける従業員エンゲージメント分析の取り組みが紹介され、その後、その知見を踏まえた対話型AIの活用事例(NECおよびSHIFT)が共有されました。
前半では、NECにおけるエンゲージメント分析の進め方が説明されました。特徴的だったのは、サーベイ結果を単なるスコア把握に留めず、分析レベルを段階的に高度化していった点です。初期の単純集計や属性別比較から出発し、設問間の関係性を捉える分析へと進めることで、「どの要素がエンゲージメントに影響しているのか」「どこに手を打つべきか」を構造的に特定していきました。分析結果は、人材育成や学び直し施策と結び付けられ、経営戦略と人材戦略を接続する材料として活用された点が強調されました。重要なのは分析そのものではなく、分析結果を意思決定や施策にどう落とし込むかである、という整理がなされました。
後半では、こうした人材データ活用の文脈を踏まえた対話型AIの事例が紹介されました。NECでは、キャリア理論や人材開発の知見を組み込んだ対話型AIを社内向けに導入し、従業員が気軽にキャリアや業務上の悩みを言語化できる環境を整備しました。当初は「話しやすさ」や「安心感」は評価された一方で、課題の深掘りや次の行動につながりにくいという問題が顕在化したため、共感・整理・次アクション提示を意識した会話設計や、対話内容の要約・振り返り機能の追加など、継続的な改善が行われました。
あわせてSHIFTの事例として、対話型AIを用いて従業員の本音や状態を引き出し、それを直接管理や評価に使うのではなく、上司との1on1やマネジメント改善につなげる補助情報として活用する取り組みが紹介されました。ここでは、AIが人に代わって判断するのではなく、対話を通じて情報を可視化し、人のマネジメントを支援する役割を担っている点が強調されました。
講演全体を通じて、対話型AIは万能な解決策ではなく、人が介入すべき領域と組み合わせて初めて価値を発揮するという整理がなされました。人材データ分析で構造を捉え、対話型AIで日常的な気づきや言語化を支援し、最終的な判断や関与は人が担う。この役割分担こそが、エンゲージメント向上における現実的かつ持続的なアプローチである、という点が本講演の結論でした。

講演2)フィットネス事業の展望と動向
講師:宮川典之(AIビジネス研究会 会員)
本講演は、フィットネスクラブ産業を題材に、業態の分化と競争構造の変遷を俯瞰する内容でした。市場規模は定義により統計がばらつく点を押さえつつ、コロナでの落ち込みと足元の回復を大枠として共有しました。
業態分類として、①フルスペック型(ジム・スタジオ・プール・風呂等)、②24時間ジム型、③無人(コンビニ)型、④コミュニティ特化(例:女性向け小型)型、⑤パーソナル型、⑥姿勢改善等の体質改善型(マシンピラティス等)、⑦エンタメ体験型(暗闇系等)を整理し、「1990年代はフルスペック中心→2010年代以降に一気に多様化」という流れを説明しました。
背景要因として、入退館管理・監視・クラウド会員管理などのインフラ整備が無人・24時間型を成立させたことに加え、経験者増により「自分が何をしたいか」で選ぶ時代になったことが設備投資を抑えた小型の特化型店舗を生み出しました。
また、フルスペックは設備固定費が重く、特にプールが用途転換の足かせとなる構造的制約が示されました。
最後に、環境変化でそれまでの成功法則が通用しなくなること、需要は突然生まれず“揃うタイミング”があること、差別化の読み違い(設備投資の方向性等)が失敗を生むことを教訓として提示し、今後は医療との連携・シニア需要の更なる拡大、テクノロジー活用(AIパーソナル等)の可能性に触れてまとめられました。

講演3)AIで何ができるのか。
講師:AutoAIze株式会社 代表取締役松崎大河様
本講演では、松崎氏が2025年3月に前職を退職し、AI活用による業務変革を事業とするAutoAIze株式会社(講師は「AI版SIer=AIer」と表現)を創業した経緯と、現場でのAI実装・運用の実態が共有されました。中心メッセージは、AI活用は「ツール導入」ではなく「業務オペレーションの再現(=ドメイン知の移植)」であり、成果は要件定義と泥臭いチューニングに左右される、という点です。
1)事業モデルと提供価値
AutoAIzeは企業内の業務を対象に、既存の人手オペレーションをAIエージェントとして実装し、処理能力を桁違いに拡張することを狙います。導入局面で多い課題として、ChatGPT/Copilot/Gemini等は使えても、それ以外のツールがセキュリティ要件で使えない、そもそもAIを動かす環境が整っていない、といった「前提条件の欠落」が挙げられました。ここに対して、要件を満たす環境設計・ツール選定から入り、実装と定着まで一気通貫で支援するのが同社の立ち位置です。
2)実装アプローチ(ドメインエキスパート中心設計)
講師は、業務知を持つ現場担当者を「ドメインエキスパート」と捉え、その頭の中の判断基準・作業手順を言語化してAIに落とし込むことが肝要と述べました。実務上は、AIのアウトプットをドメインエキスパートに突合し、「どこが違うか」「何を見落としているか」を反復的に確認しながらプロンプトやデータ、ワークフローを調整するため、初期は特に泥臭い作業になる点が強調されました。一方で、人が認知し判断している業務であれば、丁寧に設計すれば高い再現性を持って自動化できる、という現場感が示されました。
3)具体事例(採用・特許・ベテラン知の継承)
事例として、特許分析で外部情報の収集・分類・マップ化を行い、競合動向の変化把握を支援する例、メーカーを中心に多い課題として、ベテランが抱える過去製品対応や暗黙知を、メール・Teams・SharePoint等の社内資産とRAG(社内情報検索)で体系化し、不足領域を検知して追加ヒアリングまでエージェントが回す構想が述べられました。ここでは、従来は高額な外部コンサル投入が必要だった知見移植を、AIでスケールさせる意義が示されています。
4)人材像と今後の展望
組織面では「開発だけ」「営業だけ」では不十分で、顧客との対話を通じた要件定義と、プロトタイプ実装を往復できる人材を育てる方針が語られました。さらに、AIが普及するほど重要になるのはコード能力よりも「何を再現したいか」を明確にする言語化能力であり、ここが人材育成の主戦場になるという示唆で締めくくられました。講師個人の動機として、AIは誰でも扱える再現性が高い技術であり、挑戦を後押しし得る“新しい武器”になる点が、事業選択の決め手として語られました。

ワークショップ)人とAIが共創する社会を実証するワークショップ
本ワークショップは、「現場のベテラン」とは何かを参加者自身の経験に引き寄せて言語化し、その要素のうちAIで代替できるもの/できないものを切り分けることを目的として実施されました。
各チームの発表では、まず「現場のベテランとは何か」という問いに対し、単なる経験年数や知識量ではなく、経験の使い方に本質があるという認識が共有されました。多くのチームで、ベースとなるのは過去の成功・失敗の蓄積だが、それをそのまま当てはめるのではなく、状況に応じて取捨選択できる点が重要だと整理されました。また、交渉や調整の場面で「どこに力を入れ、どこで譲るか」という勘所を把握していること、さらに個別業務ではなく事業全体や時間軸を意識して意思決定できる俯瞰力が、ベテラン性の中核として挙げられました。
次に、これらの要素のうちAIで代替可能な部分については、各チームとも比較的意見が一致していました。具体的には、条件が明確な状況下での論点整理、過去事例やデータに基づく選択肢の提示、言語化されたルールに沿った交渉案や判断理由の生成などは、AIが十分に担える、あるいは人を強力に補完できるとされました。「正しいと思われる答え」を一定の前提条件のもとで出す能力については、AIはすでに実用水準にあるという評価が多くありました。
一方で、AIでは代替が難しい、あるいは不可能だと考えられる要素については、各チームとも慎重な議論が行われました。多く挙げられたのは、損失を被る可能性を理解したうえで意思決定する覚悟、言葉に表れない相手の本音や感情を表情・沈黙・空気感から読み取る力、そして前例のない事態や想定外の状況において、何を基準に決断するかという判断軸です。これらは、同じ条件下でもベテランによって答えが分かれ得るものであり、単純な再現や最適化の対象になりにくいという点で共通認識が形成されました。
総括として、各チームの発表からは、「AIに仕事を奪われるかどうか」ではなく、現場のベテランが担ってきた役割を分解し、AIに委ねられる部分と人が引き受けるべき部分を再設計することが重要だという結論が導かれました。AIは判断材料や選択肢を高速かつ網羅的に提示する存在として位置づけられ、人は最終的な意思決定と責任、そして未曽有の状況への対応を担う。この役割分担こそが、「人とAIが共に創る現場」の具体像であるという点で、各チームの認識は概ね一致していました。


