2026年7月18日(土)、かながわ県民センターにてAIビジネス研究会の7月定例会が開催されました。今回の定例会では、AIが進展する未来において、経営者は何に基づいて意思決定すべきかをテーマに、AIが経営判断やコンサルタントのあり方に与える影響から、起業における経営者の意思決定ストーリー、そして最新のARデバイスを活用したワークショップまで、診断士としての未来を考える極めて濃密な時間となりました。
講演1)AIによる意思決定
講師:小泉 昌紀(AIビジネス研究会代表)

小泉代表よりAIが急速に普及する未来において、経営者は何に基づいて意思決定を行うべきか、またコンサルタント(中小企業診断士)はその意思決定をどのように支援すべきかについて講演が行われました。
1.AI時代に求められる意思決定のあり方
近年、AI分野を牽引する研究者や企業のリーダーたちは、AIが社会や産業に大きな変革をもたらす可能性を示す一方で、その急速な進化に伴うリスクや、人間が主体的に意思決定を行う重要性についても相次いで発信しています。こうした世界的な潮流を踏まえ、本講演ではAI時代に求められる意思決定のあり方について考察が共有されました。
- 生成AIの普及と意思決定の変化
生成AIの普及により、情報収集や分析、アイデア創出は誰でも短時間で行えるようになり、AIは経営者やコンサルタントにとって強力なパートナーとなりつつある。一方で、AIが示す答えをそのまま採用するのではなく、複数の選択肢を比較し、その根拠を吟味し、不確実な状況の中で最適な意思決定を行う能力は、これまで以上に重要になっている。 - AIの限界「ギザギザ効果(Jagged Frontier)」
AIは特定の知的分野では人間を凌駕する一方で、一見簡単に見える領域で突如として間違える「ギザギザの境界線(Jagged Frontier)」を持っている。そのため、AIを活用する際には、答えを鵜呑みにするのではなく、その適用範囲や限界を理解したうえで、人間が最終的な判断を下すことが大事である。 - 「AIのおべっか(Sycophancy)」への警鐘
AIは人間に調子を合わせ、ユーザーの好む回答を生成してしまう傾向がある。AIを意思決定のパートナーとして活用するには、自ら問いを立て、複数の視点から根拠を検証し、主体的に判断する姿勢が不可欠である。
2.データと因果に基づく意思決定の実践
マーケティング実践研究会で支援した茨城県つくば市のホテルの朝食改善事例が紹介されました。データに基づきターゲットを絞り、デザイン思考を用いて「Instagram映え」する盛り付けセットを開発。結果として、宿泊サイトの評価を9ヶ月で3.6から4.5へと劇的に向上させた事例が紹介されました。 この事例を通じて、データから課題を発見し、因果関係を考えながら仮説を立案・検証し、意思決定につなげるプロセスの重要性が示されました。講演では、AIは情報収集や分析を支援する有効なツールである一方、現場を深く理解し、科学的な根拠に基づいて最終的な意思決定を行うのは人間であり、その判断を支援することこそが経営者や中小企業診断士に求められる本質的な役割であると強調されました。
講演2)自分は何のために起業したのか? ― パーパスでつくるキャリアの軸
講師:M-システムコンサルティング株式会社 代表取締役 小関 泰様

大手シンクタンクで長年システムコンサルティングに従事し、55歳で起業した小関氏より、自身の失敗と成功の経験をもとに、経営者としてどのような意思決定を積み重ねてきたのか、そしてその背景にある「独自の経営哲学」が語られました。
1.2度の組織崩壊から学んだ教訓
小関氏は会社員時代、2度組織を立ち上げましたが、いずれも2〜3年で頓挫させてしまった経験を持ちます。その経験を振り返り、売上や利益、組織の維持そのものを目的とする意思決定を行ってしまったことが失敗の要因だったと分析されました。この反省から、現在は「売上・利益を目標(KPI)に置かない」という独自の経営方針を掲げ、経営者として何を優先して意思決定すべきかを重視した経営を実践していることが紹介されました。
2.M-システムコンサルティングの独自の経営スタイル
- ミッションは「次の一歩への寄り添い」
壮大な未来像を描くだけでなく、明日から実行できるリアリティのある施策(次の一歩)に主体性を持って寄り添うことを重視しています。 - 固定資産を持たない「機動力経営」
正社員を限定し、経験豊富なコンサルタントと連携する体制を構築。不動産や長期負債を持たず、環境変化に迅速に対応できる経営を目指しています。その結果、無理な案件受注を避け、コンサルタントが伸び伸びと働ける環境を確保しています。 - 信頼関係を基盤とした顧客支援
会社名ではなく、一人ひとりとの信頼関係を基盤とした長期的な顧客との関係構築を重視しています。公共団体とITベンダの両方の立場を知る知見を活かし、双方の「橋渡し」となるアドバイザリー業務を主軸としています。
3.「本当の強み」の再定義
小関氏は、「資格や知識そのものではなく、お客様から対価をいただける価値を提供できて初めて、それが本当の強みになる」と語りました。自身の経験から、単なる知識ではなく「市場価値としての自分の強み」を正しく認識することの大切さが強調されました。
ワークショップ)自身の強み分析とARビジネス提案
後半は、同社が現在注力している「AR/AIグラス」を活用した新規事業の検討をケーススタディとし、参加者が自分たちの強みを活かしながら、同社の新規事業に関する意思決定に役立つビジネスモデルを提案するワークショップが行われました。
1.最新デバイスの体験会
ワークショップの冒頭、同社代表の小関氏と主席シニアコンサルタントの山田氏によって、会場に3種類のAR/AIグラスが用意されました。 参加者は実際にデバイスを装着し、目の前に広がる大画面や、視界に情報が付加される「未来の視覚体験」を楽しみました。

2.チーム別ディスカッション
ワークショップでは、3~4名のグループに分かれ、次の順番でディスカッションを行いました。
- まず、ワークシートを用いて自身の業務経験や専門性、強みを整理し、グループ内で共有することで、自身の強みや提供できる価値について理解を深めた。
- 次に、M-システムコンサルティングをケース企業として、AR/AIグラスを活用した新たなビジネスモデルを検討しました。参加者は実際にARグラスを体験しながら、それぞれの強みを活かした事業アイデアを議論し、各グループで独自のビジネスモデルを提案した。

3. チーム別発表
診断士らしい多角的な視点から、具体的なアイデアが多数発表されました。
- デジタル秘書・営業支援
顔認証技術を使い、面会相手の名前や過去の商談履歴を視界に表示。また、プレゼン中のカンペ表示や残り時間をガイドする機能。 - 介護・認知症対策(回想法)
360度カメラで自宅を撮影し、施設に入居した高齢者にグラスで見せることで、認知症の進行抑制や精神的な安定を図る。 - 社会課題解決
前を向いたまま移動情報を確認できる「歩きスマホ防止」案内サービスや、複雑な市役所窓口での誘導支援。 - 技術伝承・教育
工事現場などの熟練者の視点をリアルタイムで共有し、ハンズフリーで指示を受ける仕組み。


小関氏からは、「ARグラスはVRより軽量で高齢者との相性が非常に良いこと」や、「顔認証などの具体的なアプリは実現の可能性が高い」といった、ビジネスの実現性に踏み込んだフィードバックが贈られました。
AI時代に求められる意思決定と価値創造について学び、参加者同士が実践的な議論を深めた充実の定例会となりました。

まとめ)
今回の定例会を通じて、AIの急速な進化によって情報収集や分析が容易になる一方で、経営者が何を問い、何を根拠に意思決定を行うか、そしてコンサルタントがその意思決定をどのように支援するかが、これまで以上に重要であることを学びました。また、起業家の実体験とワークショップを通じて、自身の強みを活かしながら経営者の「AR/AIグラス新規事業」の意思決定に貢献することの重要性について理解を深める機会となりました。

講演・ワークショップ終了後の記念撮影。AI時代の意思決定について学び、参加者同士の交流も深まる充実した定例会となりました。
文責:髙田会員


