2026年5月16日(土)、かながわ県民センターにて、神奈川県中小企業診断協会 AIビジネス研究会の5月定例会が開催されました。今回の定例会では、体験参加者も交えてClaudeとChatGPTの2大生成AIを使いこなし、「AIで地域・公共の未来をどう描くか」をテーマに、3名の講演とワークショップを行いました。
講演1)ClaudeでAIエージェントを体験しよう! ― 「今話題のAgent Skills」を使ってみよう
講師: 笠置 晶 会員
笠置会員からは、Anthropic社のClaudeに最近実装された新機能「Agent Skills」について、ハンズオン形式で解説いただきました。今回のテーマは、AIを「使う」から「作る」へ、ということで生成AIが単なるチャットの域を超え、新たなフェーズに入りつつあることを予感させる内容でした。

説明の中で「AIの役割は相談役から実行役へ移り変わっている」というスライドもあり、GPTsやGemsがアドバイスをくれる「ナビゲーター」であるのに対し、Agent Skillsは実務をこなす「運転手」という違いがあるとのことです。Agent Skillsは台本や手順書に沿って動くため、毎回同じ結果を再現でき、定型作業の自動化において極めて有効であることが説明されました。
特に参加者の関心を集めたのが「skill-creator」です。実際に各自Claudeを開き、「ファイナンス財務3表作成スキル」や「ビジネスプラン作成スキル」を直接インストールするハンズオンを実施しました。さらに「Claude in Excel and PowerPoint」を活用し、Excelの財務モデルからPowerPointのスライドを自動生成する連携にも挑戦しました。 こうした体験を通じて、参加者は診断士業務の自動化・高品質化を身をもって体感しました。Agent Skillsが単なる新機能ではなく、自分たちの業務を抜本的に変えうる存在であることを理解する貴重な機会となりました。
講演2)公共と生成AIの今 ― 県民参加と地域ガバナンスはどう変わるか
講師: 織田 幸子 様

続いて、公共分野における生成AIの活用について、織田様にご講演いただきました。
行政参加には、陳情、パブリックコメント、市民説明会などの仕組みがありますが、行政文書は内容が難しく情報量も多いため、多くの人にとって身近なものとは言い難いのが現状です。その結果、参加する人が限られ、特定の意見に偏りやすく、特に若い世代の参加が少ないという課題があります。
織田様は、生成AIがこうした課題の解決に役立つ可能性があると説明されました。例えば、難しい行政文書を分かりやすく要約したり、論点を整理したり、外国語や音声などさまざまな形で情報を提供したりすることで、県民が行政に参加しやすくなると期待されています。生成AIは単なる業務効率化のツールではなく、県民と行政との距離を縮める役割を担うようになるかもしれません。
その先進事例として、横須賀市の全庁的なChatGPT導入をご紹介いただきました。市長アバターによる英語の動画配信や、施政方針を生成AIで視覚化するなど、様々な取り組みが紹介されました。横須賀市では、保守的になりがちな行政の特性に対して「まず小さく使ってみる」という姿勢を徹底し、職員のAIへの抵抗感を下げています。その一方で、「ハルシネーション(AIの嘘)を完全に制御するのは不可能であり、それがあることを前提に許容される範囲で活用する」という考えのもと、産学官連携でAIを適材適所に取り入れています。具体的には、認知症予防AIや、24時間365日対応の傾聴相談AIなどの事例が紹介されました。 「AIを使える自治体」になることで、「市民との対話が深化する自治体」を目指す ―― 単なる業務効率化に留まらず、行政と市民の関係性そのものを再設計しようとする横須賀市の姿に、参加者一同が深く感銘を受ける講演となりました。
講演3)デジタル時代のまちづくり ― AIは“地域の関係性”をどう変えるのか
講師: 土屋 俊博 様(まちとしごととくらしの研究所)

3人目の登壇者として、IT企業、内閣府、地域の現場、そしてシビックテックでの豊富な経歴を持つ土屋様にご講演いただきました。今回はなんと、講演スライド全編が「漫画調」のビジュアルという、研究会史上きわめてユニークな発表となりました。地方において、高齢化、地域コミュニティの希薄化、情報格差などの課題が複雑に絡み合う中、「AIの進化によって地域のあり方がどのように変わりつつあるか」というテーマでお話しいただきました。
現代のスマートシティは「第3世代」まで進化しており、その中心は「市民参加・Well-being型」へと移行しています。今回は東京都、会津若松市、神戸市、つくば市などの事例が紹介されましたが、それぞれアプローチは異なっても、共通して『地域の生存戦略』が大きなテーマになっているとのことでした。
一方で、「システムを導入して終わる」「アプリを作っても使われない」「データ基盤だけが整備される」「内部だけで完結してしまう」といった、デジタル化における“よくある失敗”も共有されました。こうした現場で起きていたのは「人がつながらない、自分ごと化されない」という現象であり、土屋様は「まちづくりとは関係性づくりである」と強調されました。
このような観点から見ると、生成AIの本質的な役割は「“声の小さい人”を参加させる技術」だと言えます。提案書の作成、イベントの企画、地域広報、アイデアの可視化などをサポートすることで、市民の「参加障壁」を下げる役割が期待されています。これからは「アイデアを気軽に試せる地域社会」がやってくることを予感させ、続くワークショップへの強力な架け橋となる結びとなりました。
ワークショップ)2030年のかながわを描こう!
後半のワークショップでは、会場を6つのチームに分け、「住民としての不満から出発し、2030年にそれが解決された神奈川の姿を描く」という課題に挑戦しました。
ワークショップでは、6チームそれぞれが生成AIをパートナーとして活用し、個性豊かな「神奈川の未来像」を見事にビジュアル化しました。その中で、最優秀賞に輝いたのは「税金の使い道が、見える・伝わる・変えられる神奈川」を発表したチームです。

このチームが捉えた住民としての不満は「税金の使い道に対する公平感の欠如」でした。そして、彼らが描く2030年の姿は、「払った税金が、自分のまちに生きていると感じられる社会」であり、「Smart City Hub」というシステムを中核に据えたものです。これにより、以下の3つが実現される未来を提案しました。
・透明性: 税金の使途がリアルタイムで見える
・参加しやすさ: 住民の意見が予算や施策に直接反映される
・賢い使い方: 公平感と効果的な活用が両立する
まさに、土屋様の講演にあった「AIで何を効率化したいか?」ではなく「AIでどんな地域を作りたいか?」という問いに対して、各チームが正面から答えた素晴らしいアウトプットとなりました。
おわりに
「Claudeか、ChatGPTか」 ―― 今回のテーマに掲げた問いに対する、本研究会としての答えは、おそらく「どちらか一方ではなく、両方を使い分けながら、地域の未来を“自分ごと”として描ける人間こそが主役である」という結論に着地したように思います。

文責:野網会員


